第81章 笑顔の移転

黒谷優はどうでもよさそうに服を置くと、そのまま何事もなかったかのように南坂海乃の身体を支え、車から降ろした。

黒谷楓花は恐怖から立ち直ったのだろう。途中で車内に沈むように眠ってしまい、頬にはまだ涙の粒が残っている。

南坂海乃は視界の端で黒谷優の淡い表情を捉え、声を落として言った。

「……ありがとう」

「海乃。妻を助けるのは当然だ」

南坂海乃は口をつぐみ、彼から距離を取る。

黒谷優は自分の空になった手元を見下ろし、苦く笑った。

――これも、全部。自分が背負うべき報いだ。

病院の前には、通知を受けたマークが早くから待っていた。南坂海乃の姿を見るなり、勢いよく駆け寄ってくる。

「...

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